自分のことを考えるときに、いつも思い出すひとつのお話がある。ちょうどいいので、それを書いてみよう。
話を思い出せるくらいだから、昔確かにどこかで読んだのだが、もの覚えが悪いので忘れてしまった。だから、どこに書いてあり作者が誰なのか知っている人がいたら教えてほしい。いまはともかく、記憶を頼りに書いてみよう。
ある日、神さまは自分の子どもたちに贈り物をすることにした。さっそく天使たちを呼びあつめ、神さまが呼んでいるので、明日神さまのところへ来なさい、と子どもたち全員に告げて回るよう命令した。天使たちはすぐに飛び立って、すべての子どもたちに、神さまの言葉を伝えた。
翌日、子どもたちはみんな喜んでやってきた。気の早いやつは前の晩からもう来ていて、朝一番に乗りこんだやつをがっかりさせたりしていた。子どもたちはひとつところに集まって、神さまが来るのを今か今かと待っていた。神さまは約束の時間ぴったりに現れ、先頭の子どもから順番に、贈り物をひとつずつ授けていった。弁が立つとか、足が速いとか、並外れてねばり強いとか、勇敢だとかの贈り物だ。神さまは贈り物をたくさん持っていたため、すべての子どもたちが、ほかの誰とも違う、自分だけの贈り物をもらって満足した。
ところが、日も傾いて、もうみんな帰ってしまってから、のろのろやってきたのがいた。ひどいのろまで、およそ時間に間に合ったことがなく、いつも洟をたらして口をぽかんとあけているやつだ。
「子よ」
と神さまはあわれみをこめて話しかけた。
「おまえがいつも遅れることは、わたしにはよくわかっている。だがよりによって今日という日に、こんなに遅れたというのはいったいどうしたわけなのか。みんなもう、贈り物をもらって、とうの昔に帰ってしまった」
のろまの答えはのろくて、要領を得なかったが、神さまは何度も質問をくり返した。そして、のろまがぼんやりしていてお知らせを聞きもらしたこと、聞きつけたときにはすでに遅れていたこと、そして道中でさらに遅れてしまったことを聞き出した。
「どうも景色がきれいなので、ずいぶん足を止めて見入ってしまいました。ここらへんはめったに来ないですし、どうせ遅れているんだし、もう少しくらい遅れたって大したことじゃないと思って……どうもすみません」
のろまは顔を真っ赤にして、消え入りそうな声でもごもご云った。神さまはそれを聞いて、大きなため息をついた。
「子よ、おまえの性質からして仕方のないことではあるが、それはなんともとり返しのつかないことをした。もう少し早く来ていたら、まだ間に合っていただろう。だがいまではもう遅い。わたしの持っている贈り物は、みんな誰かにあげてしまった。もうなにも残っていないのだ」
のろまはそれを聞いて、わっと泣き出した。神さまはのろまがかわいそうになり、それにほんとのことを云うと、こののろまのことを半分忘れていたので、内心気がとがめた。それで、こうすることにした。
「よろしい、子よ、おまえには、贈り物をあげるかわりに、わたし自身をあげることにしよう。それならばまだ誰にもあげないで残っている。おまえはいつもわたしのそばにいてよい。ほかの子どもたちはそれぞれの贈り物を生かして楽しくやっていけるだろうが、おまえにはそれがないのだから、いつもわたしのそばにいて、そうしてただおまえ自身でいるがよい」
のろまは、なにしろ鈍くて単純だったから、この言葉に大はしゃぎして喜んだ。自分がなによりもいいものをもらったと思って、すっかり満足した。神さまが一緒にいてくれることくらい、心強くて楽しいことはないからだ。こういうわけで、こののろまは、相変わらず洟をたらし、なんにもできないし、なんにもわからないけれども、自分が幸せ者だということだけは、とてもよくわかっているのだ。
こういう人はときどきいる。みんなこののろまの一群で、なんにもないけれども、神さまだけを持っている。そしてそれでけっこう幸せにやっている。仕事とか、趣味とか、人生の目的とかは、自分と神さましか持っていないのろまには、あんまり話が難しすぎる。わたしもこののろまの一群だから、そういう難しい質問には、うまく答えることができないのだ。
われわれのろまはただ、なんだかよくわからないけれど幸せだなあと思って生きているだけだ。そしてほかのものがないから、自分自身を持っているしかなくて、あなたとうまく話もできないが、うまく話せない代わりに、多少ほかの手段で表現することができたりする。わたしの場合には、書くことができる。それで、わたしのことを知りたい人は、ご面倒でもわたしの書いたものを読んでもらうよりほかはないのだ。