月刊誌「雪下」セレクション

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念仏講

四月は宗教行事の多い月である。  まず第一日曜日に、集会所で念仏講というのがあった。家にお知らせの紙が配られていたので知ったのだが、なんなのか母に訊いてみたら、このあたりの婦人たちが集まってなにかする会だが、参加したことがないのでよくはわか...
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運命の殻

静かな河のほとり、大きな樹の下で、ひとりの修行者が物憂げに考えこんでいた。 「私の胸には、いま余人の思いもかけぬものが宿っている。私はついに修行を完成し、この上ない自由と安らぎを得た。だが私の心に、いまひとつの不安が兆している。なるほど私は...
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舞の宛先

これを書きはじめた今日は七月二十四日だが、国立能楽堂へ「鉄輪」を見に行ってきた。安倍晴明生誕一一〇〇年記念だそうである。会場は満員で、若い女性の姿もけっこう見かけた。安倍晴明は、ひとりのキャラクターとして現代文化のなかに完全に定着したのだろ...
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夜間救急外来の一夜

二十九日の夜中、猛烈な胃痛で目が覚めた。焼けるように痛いというのはこのことで、胃が痛いどころではなく、背中まで痛い。じくじくと猛烈に痛い。食べ過ぎたのだろうかと思って胃薬を飲んだがおさまるどころではなく、よけいひどくなってきた。ちょっと感じ...
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悪魔との対話

「へへへへへ、どうも、こいつはまずいところを見つかっちゃったな」  悪魔がへこへこした態度で出てきた。悪魔はいつも寒いのだそうで、地上をうろつくときには、定期的に火にあたらないと凍えそうな気がするのだそうである。この日もちょうど、わたしがマ...
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古い土の実り

かつてあったことは、これからもあり かつて起こったことは、これからも起こる。太陽の下、新しいものは何ひとつない。 見よ、これこそ新しい、と言ってみても それもまた、永遠の昔からあり この時代の前にもあった。 コヘレトの言葉、第一章九節から十...
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選ばれた地

わたしの生まれは秋田の横手だが、先祖は江戸時代に京都からこの地へやって来たのである。縁はおそらくなにもなく、そういう意味では偶然選ばれた地なのであるが、この地方の雪の多さには正直まいったに違いない。途方に暮れたかもしれない。あるいはこれもな...