雑記

引き戻しをはかる

昔の自分がいまよりはるかに豊かだったかもしれないと気がつく瞬間は悲しいのだが、どうしようもない。せめて引き戻しをはかり、それでも戻らないものは新しく加えていくしかない。
小さな話

詩人の魂

神はなぜ詩人の魂をつくったのだろう。たぶん、退屈だったからだ。自分を見て、自分に話しかけてくれる人が欲しかったのだが、祈りをささげる人だけではちょっと足りなかったのだ。神と同じ笑いを笑い、神と同じ風の中で、ぐるぐる回って遊んでいるようなのが...
雑記

無題

人の内面的成長に関わる問題は、云うほうも云われるほうも愉快ではない。人の欠点をあげつらうのが好きなやつもいるが、それは話がぜんぜん別である。このことを理解したあとの世界は、もはや宗教的な理想から一種の無味無臭を目指そうとする世界と同じではな...
日記

ある日の日記から

スウェーデンの作家、ラーゲルクヴィストの『巫女』という小説をたまたま古本屋で見つけ、前日から貪るように読んだ。  ゴルゴダの丘に向かう途中のイエスに呪いをかけられて死ねない体になってしまった男が、自分の未来がどうなるのかについて助言を求めて...
雑記

無題

8月が終わってしまった。祖母が95になった。もう10年以上もぼけているのでもはや体が生きているだけのようになっているのだが、それでも生きているのはたぶんわたしのためであるような気がする。わたしがもう大丈夫というところへ行くまで、祖母は死なな...
月刊誌「雪下」セレクション

選ばれた地

わたしの生まれは秋田の横手だが、先祖は江戸時代に京都からこの地へやって来たのである。縁はおそらくなにもなく、そういう意味では偶然選ばれた地なのであるが、この地方の雪の多さには正直まいったに違いない。途方に暮れたかもしれない。あるいはこれもな...
小さな話

ギデオン

しるしなく信じる者はさいわいである だが幾度もしるしを求め 確かめずには進むことのできぬ者もまたさいわいである 信じよ 信じることを疑う者よ 神がおまえに幾度もしるしを与え これからも与えることを そしてなにより 神のしるしはもう おまえの...
雑記

存在

実家は明治期に仏教から神道へ変わったので、家に神殿があって、薄暗い部屋に真っ黒な木板を組んだ祭壇があった。部屋の四隅は暗かった。祭壇の奥も暗かった。四隅の暗がりにはなにかが住んでおり、祭壇の暗がりの奥にはなにか絶対的な、ほかのあらゆるもとは...
小さな話

ひとつのお話

自分のことを考えるときに、いつも思い出すひとつのお話がある。ちょうどいいので、それを書いてみよう。  話を思い出せるくらいだから、昔確かにどこかで読んだのだが、もの覚えが悪いので忘れてしまった。だから、どこに書いてあり作者が誰なのか知ってい...