月刊誌「雪下」セレクション

夜間救急外来の一夜

二十九日の夜中、猛烈な胃痛で目が覚めた。焼けるように痛いというのはこのことで、胃が痛いどころではなく、背中まで痛い。じくじくと猛烈に痛い。食べ過ぎたのだろうかと思って胃薬を飲んだがおさまるどころではなく、よけいひどくなってきた。ちょっと感じ...
月刊誌「雪下」セレクション

悪魔との対話

「へへへへへ、どうも、こいつはまずいところを見つかっちゃったな」 悪魔がへこへこした態度で出てきた。悪魔はいつも寒いのだそうで、地上をうろつくときには、定期的に火にあたらないと凍えそうな気がするのだそうである。この日もちょうど、わたしがマッ...
月刊誌「雪下」セレクション

古い土の実り

かつてあったことは、これからもあり かつて起こったことは、これからも起こる。太陽の下、新しいものは何ひとつない。見よ、これこそ新しい、と言ってみても それもまた、永遠の昔からあり この時代の前にもあった。コヘレトの言葉、第一章九節から十節(...
雑記

引き戻しをはかる

昔の自分がいまよりはるかに豊かだったかもしれないと気がつく瞬間は悲しいのだが、どうしようもない。せめて引き戻しをはかり、それでも戻らないものは新しく加えていくしかない。
小さな話

詩人の魂

神はなぜ詩人の魂をつくったのだろう。たぶん、退屈だったからだ。自分を見て、自分に話しかけてくれる人が欲しかったのだが、祈りをささげる人だけではちょっと足りなかったのだ。神と同じ笑いを笑い、神と同じ風の中で、ぐるぐる回って遊んでいるようなのが...
雑記

無題

人の内面的成長に関わる問題は、云うほうも云われるほうも愉快ではない。人の欠点をあげつらうのが好きなやつもいるが、それは話がぜんぜん別である。このことを理解したあとの世界は、もはや宗教的な理想から一種の無味無臭を目指そうとする世界と同じではな...
日記

ある日の日記から

スウェーデンの作家、ラーゲルクヴィストの『巫女』という小説をたまたま古本屋で見つけ、前日から貪るように読んだ。 ゴルゴダの丘に向かう途中のイエスに呪いをかけられて死ねない体になってしまった男が、自分の未来がどうなるのかについて助言を求めて、...
雑記

無題

8月が終わってしまった。祖母が95になった。もう10年以上もぼけているのでもはや体が生きているだけのようになっているのだが、それでも生きているのはたぶんわたしのためであるような気がする。わたしがもう大丈夫というところへ行くまで、祖母は死なな...
月刊誌「雪下」セレクション

選ばれた地

わたしの生まれは秋田の横手だが、先祖は江戸時代に京都からこの地へやって来たのである。縁はおそらくなにもなく、そういう意味では偶然選ばれた地なのであるが、この地方の雪の多さには正直まいったに違いない。途方に暮れたかもしれない。あるいはこれもな...
小さな話

ギデオン

しるしなく信じる者はさいわいであるだが幾度もしるしを求め 確かめずには進むことのできぬ者もまたさいわいである信じよ 信じることを疑う者よ神がおまえに幾度もしるしを与え これからも与えることをそしてなにより 神のしるしはもう おまえの魂のなか...