乗り物の分かれ道

 この夢の主人公は二人の大学生らしい男の子で、学生の団体旅行のようなものに参加するために空港を目指している。ふたりとも遅れそうになっているのか、空港へ走って急ぐ。なんとか間に合い、座席に座ることができた。まわりには仲間の学生たちがすでに座って、離陸を待っている。点呼があり、全員揃っていることが確認され、飛行機は離陸する。

 ところが、無事飛行を開始してしばらくたったころ、突然飛行機がばらばらになり、乗客たちも散り散りになってしまう。ふたりの男子学生は尾翼につかまって、なんとか飛びつづける。この尾翼はなぜか推進力を持っていて、つかまっているとひとりでに飛んでいくのだ。
 やがてふたりはどうにか地面に降り、お互いに抱き合った。

 これで思い出したが、旅行へ行くために飛行機に乗り、その飛行機が途中でばらばらになるという夢は何度か見たことがある。一番鮮明に覚えているのは、北欧へ旅行に行こうとした夢である。わたしは木組みの大きな倉庫のようなところへ行き(このときも遅刻気味であった)、中に待機していた飛行機に乗る。たぶん修学旅行である。飛行機はノルウェーを目指して離陸するが、雪が吹きつける中、空中で突如ばらばらになってしまう。わたしは急降下におびえながら、それでも大破した飛行機の一部にしがみついて、なんとか地上へ戻ってくるのである。

 考えてみれば、乗り物が急にばらばらになるという夢をはじめて見たのは、ずいぶん昔のことだった気がする。たぶん九歳かそこらのことだったと思うが、毎週土曜日のスイミング教室に通うために車で走っていたら、突然車が真ん中から左右に割れて、わかれて走りはじめた。あんまり鮮明な夢だったので、わたしはこれがほんとうにあったことではないかとずいぶん疑った。

 毎週土曜日は母の実家に寄り、それからスイミングスクールに行くのだった。スイミングスクールは好きでなかった。わたしはふたつに別れた車のもう片方に乗って、永久にプールに行かない人生を送りたいものだと思っていた。あのふたつにわかれた車の片割れには、自分とは別の人生を送るもうひとりの自分が乗っていたのではないかなどと、ずいぶん変な空想をたくましくしたものである。

 プールは嫌いだったが、そこへ行くために車に乗っている時間は好きだった。流れる風景を見つめながら、好きなだけ空想にふけることができたからである。わたしは空想の世界のほうが本当で、スイミングスクールに行く自分はきっと間違った自分、というよりはずれくじを引いてしまった自分なのだと感じていた。当たりを引いた自分は、ちゃんと自分のいるべき場所にいて、しかるべき暮らしをしている……当たりくじを引いた自分が、別のどこかでおよそ考えうるかぎりもっとも幸福な人生を送っているかもしれないと思うと、なんとなく慰められる気もするし、それでもってもうすべてよしと言ってしまいたくもなるが、しかしあのわたしから別れていったもうひとりの自分が、いまどこにいてなにをしているのか、それを知る手がかりを、あるいは夢というものが与えてくれるかもしれないのである。