進まない美容院

 わたしは同級生たち数名と美容院に来ている。わたし以外の人たちは、一階の明るい美容院で施術を受けているが、わたしはなぜか頭にバターとほかのなにかからなる液体をかけられ、タオルかなにかで頭をぐるぐる巻きにされて椅子に座らされたまま、エレベーターに乗せられて、明かりもついていない地下にやられた。わたしは立ち上がり、壁を探って電気のスイッチを押すところからはじめなければならず、しょうことなしに自分で明かりをつけて待っていた。が、待てど暮らせど担当の美容師はやってこない。地下の部屋は薄暗くて、大きな鏡と椅子が壁の三面に並んでいてなんとなく不気味である。

 そのうちに、髪をセットし終えた同級生のひとりがわたしの様子を見にやってきた。わたしたちは一緒に一階へ上がっていった。そうしたら、もうみんなすっかりヘアセットまでできあがっていて、わたしだけがまだなにもできていないのだった。しかも、受付のところにいる店長の男に訊いたところ、わたしの担当の美容師は今日の午前中で帰ってしまい、次は水曜日でなければ来ない、とシフト表のようなものを見ながら言う。シフト表は、その女性が来る日付を丸で囲んであった。
 担当の美容師というのは、なにやら口先だけ調子のいい全盛期のギャルみたいな女性で、結婚していて小さい子どもがいる。わたしがこんなに彼女の情報をいろいろ知っているところをみると、たぶんわたしたちはシャンプーかなにかのあいだにめいっぱいしゃべったのだろう。わたしは女がしゃべるに任せておき、女のあれやこれやをみんな知ってしまって、子持ちの女の苦労に同情してしまったのだと思われる。こんなわけで、わたしはいつも結局怒るに怒れないのだ。
 わたしは店長に、「あの女性は接客商売に向いてないと思いますよ」と云うにとどめた。これは精一杯の皮肉であるが、この皮肉から真実を聞き取れるだけの耳があるなら、それは大したことであると思った。

 なんだかため息が出てめまいがするような夢であるが、この当時のわたしの自我というのはこんな状態だったのである。わたしが女性性というものをどれだけ地下深くに埋めて、見下していたかがよくわかるというものである。こんな人が美容院に行ったところで、だれも接客などしたくないにちがいない。