布団を引いて

 わたしは背中に布団を乗せて、雪道を這い進んでいる。暮れ方である。あたりは濃いすみれ色をしている。雪がどさどさ降っている。わたしはやわらかい雪を両腕でかきわけて進んでいる。
 実家は二軒あり、三十年ほど前に新築した家のほかに、古い農家時代の家がそのまま残っている。二軒は同じ敷地にあるのだが、夢の中では、昔の家は離れたところにあることになっているらしく、わたしはそこから新しい家へ布団を運んでいることになっている。道を左に折れて、つきあたりがT字路になっている坂道を降り、辻角に建っているお地蔵様の御堂を過ぎて、わたしはずるずると這い進んでいった。

 この夢のあとに見た夢であることを考えるととても面白く、わたしは自分の聖域を新しい家へ必死に運んでいるようなのである。
 家を建て替えたのはわたしが小学生のころで、建築中は毎日が楽しかった。わたしは飽きずに大工さんたちの仕事を見ていた。大らかな時代だったので、わたしがしょっちゅうあたりをうろうろして、木材に触ったり道具に触ったりしても、べつに誰もなにも言わなかった。子どもというものは、単に子どもというものだと思われて、放っておかれていた。それでわたしは誰にも邪魔されずに、いろんな音がして、毎日少しずつ家ができあがってゆくのを、ずいぶん長いこと楽しんでいた。

 この辻のお地蔵様にはたびたび世話になっており、御堂の前を流れる用水路に落っこちたときには襟首を引っぱって立たせてもらったし、車に轢かれそうになったときにも助けてもらった。わたしのようにぼんやりした危なっかしい子どもがいると、お地蔵様もなかなか気が抜けないのである。はしっこい利発な子は、お地蔵様にあまり用はないかもしれないが、ぼんやりの愚図はお地蔵様の手まで焼かせるということで、いつまでも布団やらお地蔵様の加護やらにしがみつきながら、青息吐息で進んでいるのである。