安青錦が優勝した!
ウクライナ出身のこの青年力士のことをずっと応援していたが、とうとう優勝してしまった。まだ21歳である。17歳のときロシアによるウクライナ侵攻が始まり、18歳になると徴兵義務があり国外へ出られなくなるため、18歳の誕生日直前に単身日本へ渡ってきたこの青年は、たった3年で優勝をつかんでしまった。
彼を見ていると、わたしはどうしてもウクライナの広い麦畑の中で、一本の木を相手に角でどこまでも押してゆく雄牛を思い出す。この朴訥な雄牛は、木との力比べの合間に、つかの間広い空を眺めて角を休めたあと、また首をゆらゆら振っておのれの角を突き出し、木をぐいぐい押して勝負を挑むのである。
あるいは同じ広い麦畑のかたわらで、わあわあ言いながらレスリングをしている子どもたちの中に、彼の魂もまたあるのかもしれない。その中にひとり図抜けて強い男の子がいて、誰もこの子を負かすことができないのだが、そういう碧い目の不思議な男の子が、やがて政治的な事情から若くして日本のお相撲さんになる、そして多彩な技を駆使しながら無類の勝負強さを発揮するという、これはもう完全にわたしの妄想だが、妄想でもなんだか胸を打たれる気がするのである。

