数学のプリント

 高校時代の夢で、わたしは教室で友人のAと数学の試験のために準備をしている(Aは数学が得意である)。そこへ、もう名前を忘れたが顔は覚えている、別の女生徒がやってきて、数学のプリントを貸してくれと云ってきた。彼女は高校のある時期わたしの後ろの席に座っていたが、このときもわたしの後ろから声をかけてきた。そしてなんだか和まずにいられない笑顔で、どうか数学のプリントを貸してくれと云ったのだった。

 2021年1月はコロナ禍の真っ最中だった。都会の人間が田舎へ移動するのもはばかられたころだが、わたしはこの時期になぜか急に実家に帰ることを思いつき、実家に帰った。そして結局は、そのまま実家に帰ってしまった。

 わたしに数学のプリントを借りに来たこの同級生は、わたしの魂を迎えに来たのである。彼女は女神のように見えた。しかしほんとうに美しく知恵のある女神は、荘厳な雰囲気のもとにあらわれるのでなしに、プリントを貸してくれというような、とても小さなことのなかにあらわれる。この慎ましさと謙虚さとが、もし人の魂に宿るとすれば、その人はどえらいことなどなにひとつ成し遂げないかもしれないが、非常に豊かな人であるだろう。