わたしは引っ越しをしようとしていて、マンションの一室を見学に来ている。聡明そうな美しい女性が案内役である。わたしたちは鍵を開けて部屋に入る。一階の広めの部屋で、古いマンションを現代向けにリノベーションしたらしく、電気の傘やキッチンカウンターの色使いなど、なかなかポップでかわいらしくできている。そういうところは気に入ったが、なんだか部屋全体が暗くて、妙に天井が低いような印象を受け、なんとはなしに圧迫感を感じる。窓のすぐ外に遊歩道と芝生が広がっており、等間隔にベンチが並べてある。
わたしは契約を決めかねたようである。それで後日ふたたびその部屋を見せてもらいに行った。前回と同じ女性がまた一緒である。彼女はわたしが迷っているらしい気配を察して、こういうことは一度で決められないならもう永久に決められないと云い、いまあなたに必要なのは祈りではないですかと云う。こんな女に祈りのことなど口出しされたくないので、わたしは頭にきて、十字をかいて主の祈りをやった。すると女は驚き呆れ、はいはいという調子で別の部屋へ行ってしまった。
わたしは部屋のなかを見てまわった。前回は気がつかなかったが、右奥に四畳半くらいの畳の部屋があった。それに、トイレの窓を開けたら、遊歩道沿いの木々が窓のすぐ前に生えており、部屋の窓を鉄格子のようにふさいでいるのである。木は細長くまだ若いもののようだった。わたしは窓を開けて手を伸ばし、その木をつかんでみた。それから親しげに木をなでて、窓を開けたら木に触れるというのは悪くないな、などと考えた。
それからわたしは三たびその部屋へ行ったようである。今度は弟と、案内の女と、もうひとり不動産屋の営業らしい男がいた。営業の男と案内の女はテーブルの上に書類を広げてなにやら数字のことをしゃべっていた。弟は窓を向いて立ち、外を眺めていた。ぜんぜん気がつかなかったが、どうやら窓から海が見えるらしい。
営業の男が、年間の費用を計算してわたしに示した。わたしが弟を見ると、弟は窓から目を離してこちらをふり向き、顔をしかめて首を振った。その金額はうそで、水増しされているというのである。

