幸福

 わたしはクラブのバーのようなところにいる。やや湾曲したカウンターはクリスタルのような透明な素材でできている。カウンターの中には髪を逆立てた陽気なバーテンダーの男がいる。赤やオレンジやピンクの明かりが点滅する、暗いが明るい奇妙な空間である。
 わたしの左横には弟がいて、右横には、知り合いの夫妻が座っている。みんな思い思いの酒を飲んでいる。やがて弟の横に、長い黒髪の女性が座った。赤いミニスカートに黒いブーツをはいた、刺激的な女性のようである。弟はその女性と話しはじめた。そして気がついたら、後方にある別のカウンターにその人とふたりきりで座っていて、なにやら話が弾み、真剣に交際するようなところまで進んだようである。
 右隣の夫婦は仲睦まじく飲んでいる。バーテンの男は陽気にシェイカーを振りまわして、楽しそうに仕事している。それらを眺めながら、わたしはこういうことを求めていたのだ、と思う。わたしはわたしの幸福が幸福なのではない。わたしの愛する人々の幸福が幸福なのである。わたしの横には誰もいないが、わたしは少しも孤独に感じない。