わたしは路線バスに乗って、海沿いの街を走っている。高校の同級生Mや小学校の同級生Kなどが一緒に乗っているのだが、Kがふと、息子がマクドナルドに帽子を置き忘れたと云った。そのマクドナルドはいくつか前の停留所の近くにあるもので、Mがわたしに降りて探してきてくれという。Kはその帽子から息子の個人情報が漏れることを心配していて、どうしても取り返したいというのである。
わたしは渋々バスを降りる。広い通りの反対側にバス停の標識柱が見える。わたしは通りを横切って反対側のバス停に向かい、引き返すためのバスを待とうと思うが、なぜかそのまま歩き出してしまう。
わたしは海が見える広々した道を歩いて行く。道も建物もやわらかな肌色をした美しい町並みが広がっている。空は青々と晴れている。わたしは景色を堪能しながらしばし歩いたが、そのときMから携帯に着信があった。
Mによると、問題のマクドナルドは少し先の停留所などではなくて、なんと隣の島にあるという。わたしはそんな話は聞いていないと云い、島なんてどうやって渡ったらいいのだと怒るが、Mはともかく頼んだというような調子のいいことをいって電話を切ってしまう。
わたしはやや憤慨しながらまた歩き出したが、しばらく歩いているうちに、その島と道がつながっていることがわかった。そうか、ここは長崎なのだ。そしてここでは小さな島々がみんな道路でつながっているらしいのだ。
そうしたことがわかったので、わたしはもう心が穏やかになり、海を見ながらぶらぶら歩いて行った。橋を渡り、町と海との境界を眺めて、やがてある建物にたどり着いた。
そこは大きな教会であった。だが見た目は普通の会館かなにかのように見える。そこは隠れキリシタンがかつて密かに集い、隠れて信仰を守っていた建物なのである。
現在そこは観光施設になっている。中に入ると、弓道場のような広い道場になっていて、三つの狭い神殿らしき部屋が並んでいる。かつての隠れキリシタンたちはその部屋にこもって、ろうそくの明かりのもとで説教を聞いたり祭儀を行ったりしていたのだ。
各部屋の前に行列ができており、大勢の人たちが待っていた。案内係の人が云うには、部屋が非常に狭くて一度に限られた人数しか入ることができないので、列を作って待っていてくださいとのことである。
そのときはちょうど入れ替えの時間で、並んでいた人たちが我先にと部屋になだれ込んでいった。わたしも入れるかと思ったが、あと少しというところで、係の人が扉を閉めますと云ったので引き下がった。だがわたしのあとにいた何人かの人たちが、無理やり中に入っていった。係の人は彼らをぐいぐい押しこんで扉を閉めた。
わたしは近くの人たちと笑いあった。なにもそんなことをしないでもいつかは入れてもらえるのに、せっかちな人たちですねとみんなの顔に書いてあった。この人たちは観光客らしいが、どうやら信者のようである。いつの間にかそこにパイプ椅子が用意されていて、わたしたちは椅子に腰かけ、穏やかな気分で順番を待った。

