恍惚とした知人

 わたしは知人のTと向かいあって、台所の床に座っていた。彼女は昨夜、近所の若い女性ふたりが飼っている犬がうるさくて、一晩じゅう一睡もできなかったという話をしていた。その話をしていたら、飼い主の女性たちが部屋に入ってきた。二十歳くらいの派手な女性たちで、我が物顔で入りこんできて、大声で話している。
「いつもこうなんですよ」
 とTは云った。彼女の顔がなんとなく恍惚としているのにわたしは気がついた。
「でもわたしは気にしてません。眠れないこともぜんぜん気になりませんでした」
 Tは微笑んだ。女性たちはやかましく話を続けていたが、やがて部屋を出て行った。わたしたちがいるのに気がついていないか、どうでもいいと思っているか、あるいはここが自分たちの好きにしていい部屋であるかのように思っているらしかった。
「〇〇の(忘れてしまった。なにか神学的な用語だ)マリア様が夢に現れたんです」
 Tはうっとりと目を閉じた。
「だから大丈夫なんです」
 Tの顔を、わたしはなにか気味の悪いものを見るように見ていた。実際、それは不気味だった。