わたしは広い体育館のようなところにいる。あちこちに階段があったり段差があったりする作りになっている。とあるスポーツ選手が試合を終えて、ジャージ姿で階段を降りてきた。館内には大勢のファンが待っていて、歓声を上げ、手を振ったり叫んだりしはじめた。
わたしは別のところにある階段の上で、下へ降りていく選手を見ていた。やがて彼は階段の下の、控え室かどこかへ通じている入り口へ消えていった。ところが、彼はなぜか次の瞬間、わたしのすぐそばにやってきた。わたしの横には母と弟がいた。スポーツ選手はわたしを見て微笑み、わたしや母や弟の名前、家族構成などをみんな知っているといって話しはじめた。わたしは狼狽し、なぜそんなことを知っているんですかと訊いた。選手はにっこり笑って、歩き出した。わたしは彼について行かねばならぬ気がして、ついて行った。
しばらく行くと、長い廊下に出た。つきあたりにエレベーターがある。選手ははじめ、わたしを先導して歩いていたが、ふいにわたしの手を取った。それからわたしたちは並んで歩いたが、わたしは恥ずかしいやら困惑しているやらで、身の縮む思いだった。どうにもいたたまれないので、エレベーターに乗りこむ瞬間を見計らって、そっと選手の手を離した。ところが彼は怒ったような顔になってわたしの手をとりなおし、二度とこんなことをしないでくれというようなことを云って、しっかり握ってしまった。エレベーターの中には多くの人が乗っていたが、みな灰色の群衆のようで、わたしたちには目もくれなかった。わたしと彼の周りだけ、明かりが当たるようだった。エレベーターは静かに上昇をはじめた。
この非常に芸術的な素養をもった選手のことはたびたび夢に見るが、われわれの関係が次第に発展してゆくところがとても面白い。このときのわたしはまだずいぶん遠慮がちであり、自分がこういう人の横にいるのはおかしいと思っている。

