アメリカ人のふたりの男が、互いに納屋に閉じこもって戦っている。彼らは隣人どうしだが、なにか些細なきっかけで不仲になり、やがて憎しみ合うようになり、いまでは貴様が死ぬかおれが死ぬかというような状態である。ふたりの男は、めいめい自分の納屋にライフルや機関銃やナイフなどの武器をためこみ、相手を殺す機会をうかがっている。やがて、片方がついに相手を撃ち殺し、長かった戦いは終わる。
男は疲れて、大きな干し草の束の横に倒れこむ。納屋は二階建てほど高さがあるが二階部分はなく吹き抜けで、屋根や壁の上部がガラスでできていて、光がさんさんと降りそそいでいる。男は静まりかえった、光に満ちあふれた納屋の中で、すべての力を使い果たして、目を閉じて倒れている。アクション映画のヒーローのように、血だらけで、泥だらけだ。
突然、扉を叩く音が響き渡る。男は疲れているので、立ち上がりたくない。だが扉を叩く音はやまずにくり返される。男はついに疲れた身体を引きずるようにして立ち上がり、扉まで歩いてゆき、小さなのぞき穴から外をのぞく。そして勢いよく扉を開ける。
次の瞬間、男は床に倒れている。あたりに血だまりが広がる。扉のところに女が立っている。扉を叩いていたのはこの女だったのだ。女は純白の、ギリシアの女神たちが着ているようなドレスを着て、長い黒髪を風になびかせている。だが、その女には顔がない。まったくののっぺらぼうだ。首の上に肌色の卵形が乗っているばかりである。
この女の顔を見たのは、何年も経ってから、つい最近のことである。
いまから2年ほど前だが、病院を変えることになって、予約の日に名前を呼ばれ、診察室の前で待っていた。そうしたら、診察室のなかから、とても威圧的で怒ったような男性医師の声が聞こえてきた。わたしはこんな男に診察されねばならないのかと思って、ただでさえ緊張していたところ、なんだか泣きそうなほど不安になってきたのであるが、そのときわたしの前にひとりの輝かしい女神が現れて、わたしをかばうように前に立ち、こういう男のことはわたしに任せなさいと言った。
それでわたしはもうなんだか安心してしまって、この人がいれば自分がぼんやりの気弱でもなんとかなるだろうと思って、その医師に立ち向かう気が出てきた。
結果的に、その医師はわたしの前に診察していた女性が、態度が悪かったか不適切なことを言ったかしたためにたまたま怒っただけのことで、別に怒りっぽくてどうしようもない人というわけではなかった。それでもあの輝かしい女神に会ったことで、わたしは自分がへぼでも愚図でもなんとかなるという、妙な自信をもってしまったかもしれない。別にわたしが人もおののく女神のごとき存在でいる必要はない。わたしのなかにそういう人がいれば十分である。

