西の力

 わたしは細い入り組んだ商店街を自転車で走っていた。前をひとりの髪の長い女性が同じく自転車で走っていて、わたしはその人を追いかけている。パーマのかかった黒髪をなびかせて、その人は商店街をびゅんびゅん抜けていく。と、道の真ん中でその人が急に自転車を停め、ふり返ってわたしを見る。赤いマフラーをしたその人にわたしはぜんぜん見覚えがないが、その人は印象的なまなざしでわたしを見つめている。
 気がつくとその女性はいなくなっており、わたしは商店街を抜け、広場に出た。いつの間にか夜になっている。店の明かりはどれもオレンジ色の、優しい電球の明かりだ。冬である。まだ雪は降らない。広場は人でごったがえしている。わたしはベンチに腰を下ろして、冬の澄んだ空気のもとで、そうした風景を感傷的に見つめる。

 やがて場面が切り替わってわたしは家に帰っている。すっかり雪が積もっていて、杉の木立のそばに、大きな雪の滑り台ができている。わたしは子どものようにうれしくなって、雪をスコップで積み上げただけの、その素朴な滑り台にむしゃぶりついて登ってゆき、勢いよく滑り降りる。どうやらわたしはほんとうに子どもになったらしい、三歳とか五歳とかのわたしのようである。

 その次には、わたしはまた大人に戻っており、少し離れたところから滑り台を見守っている。もう夜で、あたりは暗いが、小さな子どもたちが何人か、滑り台で楽しそうに遊んでいる。母方のいとこがわたしの横にいて、それを一緒に見ている。このいとこには、男の子が三人あるのだ。子どものころ、このいとこは弟と一緒に、ときどき家に遊びに来た。そしてこのようにみんなで雪で遊んだのである。
 わたしはいとことぼつぼつ話をしながら滑り台を見ていたが、見ているうちに、その滑り台はどうやら人の頭のように見えてきた。雪を人の頭にかたどったと見えたが、やがてそれはほんとうに女性の頭になった。子どもたちは、巨大な頭の頭頂から鼻筋にかけてを滑り降りていたのである。髪をポニーテールにまとめたその女性は、子どもたちがいなくなったのを見てのっそりと立ち上がった。するとそれは、杉の木よりも背の高い、ひょろりとした巨人の女性であった。女性は杉の木立を通り過ぎ、のんびり歩いて行ってしまった。

 わたしといとこは、子どもたちやその親と一緒に歩きはじめた。するといとこが静かな口調で、自分は西のほうから来た、西のほうでは、このような不思議もある、西の力がこのようなことを可能にさせるのであると云った。そしてわたしにも西の力とひとつになるように、というようなことをほのめかした。わたしたちはそっと手を握った。

 暗い中を、子どもたちが提灯をもって先頭を進んでいた。わたしたちは雪を踏み、提灯のやわらかな、幻想的な明かりのもと雪を踏んで夜道を歩いていった。

 西から来た女の巨人に、わたしはこのあと、ずいぶん経ってから会った。光は東方から来るが、それとは別のものが西のほうから来る。実家では、風はたいていいつも西風である。家は東向きで、西は家の裏に当たる。西から来たものが、自分の頭を滑り台にして子どもを遊ばせ、それが終われば巨人の姿に戻る。この心優しい女の巨人は、東から来る力とはまた別の力で、子どもたちを抱擁している。